「女性店舗」支店長走る──個人客取り込む・アドバルーンの面も
右を向いても左を向いても女性職員ばかり――。銀行や信用金庫を訪れてこんな経験をしたことはないだろうか。実は女性スタッフだけでサービスを提供する金融機関の「女性店舗」が関西で相次ぎ誕生しているのだ。狙うのは家庭の財布のひもを握る女性客の取り込み。男社会の中を勝ち抜いてきた女性支店長たちが女性職員をまとめ、激化する住宅ローンや投資信託の販売競争に挑んでいる。
阪急相川駅(大阪市東淀川区)の駅前にひっそりとたたずむ摂津水都信用金庫(大阪府茨木市)の相川支店。4人の女性だけで切り盛りする小型店舗だ。2月に昇格したばかりの新米支店長、平野照子さん(43)は窓口の対応や融資の手続き、ロビーの案内など店内を所狭しと動き回る。
この店で提供するのは預金や個人ローン、投資信託、保険など個人向けサービス。企業向けなどの法人融資は手掛けず、要望があれば近隣店舗に引き継ぐ。
2階級飛び級
男性職員のいる一般店舗と違うのは犯罪対策。何気なく机に置かれた案内掲示用のガラス板はよく見ると刃物などから身を守る盾。ボタンを押せば催涙スプレーが噴射される防犯グッズだ。ブザーを押せば警備会社から警備員がすぐに駆け付けるようにしている。
支店長の平野さんは熊本県の高校を卒業後、豊中信用金庫(現摂津水都)に入庫した。当時は「3年ぐらいで結婚して辞めると思っていた」が、喜んでくれる顧客の顔を見るたびに「続けたい」との思いは膨らみ、大きな仕事も任されるようになった。同期入庫の女性で残るのは平野さん1人。支店長代理を経てこの春、2階級飛び級で支店長に昇格した。
これまでは店内の仕事で手いっぱいだったが「みんなの手本になれるよう頑張りたい」と、少しずつ外回りの営業も始めた。
再生に向けたカンフル剤として女性活用を進めるりそな銀行。JR千里丘駅前の千里丘支店(大阪府摂津市)は1984年に一般店舗として開設したが、女性客の取り込みを強化しようと2004年10月に女性店舗に衣替えした。支店長の友永恵理さん(44)は25人の女性行員をまとめ、住宅ローンや投資信託の販売を伸ばそうと取り組んでいる。
行員も続々意見
女性店舗への転換で最も影響を受けたのが職場の雰囲気だ。行員の過半を占める女性のパート行員が徐々に自分から意見を言うようになった。店内のあちこちに置かれた花の飾りや壁に掲示されたペーパークラフトなどは彼女たちのアイデア。クリスマスやバレンタインデーには行員手作りのメッセージカードを配る。
友永さんも「支店長なんて考えたこともなかった」。高校を卒業後、大和銀行(現りそな銀行)に一般職として入行。初めに配属された支店に16年勤務した後、「もっと上を目指そう」と準総合職への転換試験を受けた。事務系一筋だったため、外回りの営業など今でも分からないことは多い。「自分が苦労している分、若い子にはいろんな経験をさせてあげたい」と後輩の背中をそっと押す。
京都府京田辺市のJR松井山手駅前でも9月末の開業を目指して京都信用金庫(京都市)が女性店舗の開設準備を進めている。職員は女性8人で、店舗デザインも一般店舗と変える。駅前に金融機関の支店や出張所が多く立ち並ぶ激戦区。最後発となるが、支店長に就任予定の加藤まなみさん(42)は「一歩入っただけで雰囲気が違うと感じる店舗にしたい」と意気込む。
加藤さんは87年に総合職として入庫した。金融機関の中では女性活用が進んでいた同金庫だが、女性は窓口、外回りは男性という構図は他の金融機関と同じ。97年に同金庫の女性として初めて営業部門に配属されたが、顧客企業の方も慣れておらず「女を寄越すなんて」と言われることもあったという。
時には性別の壁に悩みながら女性初の営業職、女性初の支店長と順調にキャリアを重ね、女性職員の先頭を走ってきた。キャリアウーマンそのものといった長身の容姿と経歴から彼女に羨望(せんぼう)のまなざしを向ける女性職員も多く、一緒に働くうちに昇格試験を受けようと決心した女性職員もいる。
「立場が上がるたびに仕事の幅が広がり、仕事も楽しくなった」と加藤さん。「松井山手支店の立ち上げに成功したら、次は法人融資も手掛ける総合店舗を率いてみたい」と意欲を見せる。
ようやく女性活用に取り組み始た金融機関だが、男性偏重の労働形態から抜けきるにはまだまだ時間がかかる。女性店舗は取り組みをアピールするアドバルーンでもあるが、彼女たちの頑張りが固定化された職場の壁を突き崩すきっかけになるかもしれない。
(日経ネット関西版 より)
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